し-も 副助詞《接続》体言、活用語の連用形・連体形、副詞、助詞などに付く。 ①〔多くの事柄の中から特にその事柄を強調する〕…にかぎって。出典源氏物語 若紫「今日しも端におはしましけるかな」[訳] 今日にかぎって端近な所にいらっしゃったね。②〔強調〕よりによって。折も折。ちょうど。▽多く「しもあれ」の形で。出典古今集 哀傷「時しもあれ秋やは人の別るべきあるを見るだに恋しきものを」[訳] ほかの時もあるのによりによって、秋に人に死に別れてよいものだろうか。秋という季節は生きている人を見るのさえ恋しいのに。③〔逆接的な感じを添える〕…にもかかわらず。かえって。▽活用語の連体形に付く。出典源氏物語 賢木「事そぎて書き給(たま)へるしも、御手、いとよしよししくなまめきたるに」[訳] 簡略にお書きになったにもかかわらず、ご筆跡はたいそう風情があって優雅であるにつけても。④〔部分否定〕必ずしも…(でない)。▽下に打消の語を伴う。出典徒然草 一五五「死は前よりしも来たらず」[訳] 死は必ずしも前方からやって来るとは限らない。 しも 助動詞 特殊型《接続》四段・ナ変動詞の未然形に付く。活用{しも/しも/しも/しも/しめ/しめ}〔軽い尊敬〕…なさる。出典蚊相撲 狂言「いま少しじゃ、急がしめ」[訳] もう少しだ。急ぎなさい。◆漢文の注釈書や謡曲・狂言に多く用いられた。謡曲・狂言では命令形が多い。中世語。 しも 【下】 名詞①下の方。下方。出典源氏物語 若紫「ただこのつづら折りのしもに」[訳] ちょうどこの曲がりくねった坂道の下の方に。②身分の低い者。下位。下層の者。出典伊勢物語 八二「枝を折りてかざしに挿して、かみなかしもみな歌詠みけり」[訳] (桜の)枝を折ってかんざしに挿して、身分の高い者も中ごろの者も低い者も皆歌を詠んだ。③下位。劣っていること。▽技術などにいう。出典古今集 仮名序「人麻呂(ひとまろ)は赤人(あかひと)がかみに立たむ事かたく、赤人は人麻呂がしもに立たむことかたくなむありける」[訳] (柿本(かきのもとの))人麻呂は(山部(やまべの))赤人の上位に立つようなことはむずかしく、赤人は人麻呂の下位に立つことはむずかしかった。④下座。出典枕草子 めでたきもの「殿ばらの侍(さぶらひ)に、四位五位の司(つかさ)あるがしもにうちゐて」[訳] 貴人たちの侍として、四位五位で官職を持っている人が下座に座っていて。⑤控室。部屋。▽女房や召使いの居場所。出典枕草子 五月ばかり、月もなう「しもなるを召して」[訳] (中宮は清少納言が)局(つぼね)にいるのをお呼びになって。⑥川下。下流。出典万葉集 三八「しもつ瀬に小網(さで)さし渡す」[訳] 下流の浅瀬に小網を一面にしかける。⑦下の句。▽和歌の下の七七の部分。出典天徳歌合 十八判詞「歌の上(かみ)・しもの句の上に同じ文字ぞあめる」[訳] 和歌の上の句・下の句のそれぞれの句の上に、同じ文字があるようだ。⑧終わり。末尾。出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの「しもの十巻(とまき)を、明日にならば、異(こと)をぞ見給(たま)ひ合はするとて」[訳] (『古今和歌集』の)終わりの十巻を、明日になったら別のをご覧になって照合なさるかもしれないと考えられて。⑨のち。後世。出典千載集 序「上(かみ)正暦(しやうりやく)のころほひより、しも文治(ぶんぢ)の今に至るまで」[訳] 古くは正暦のころから、のちは文治の今に至るまで。⑩南の方。下京。▽京都で、内裏(だいり)から離れた方。出典宇治拾遺 二・五「しもわたりなる家に、ありきもせず籠(こも)り居(ゐ)たりけり」[訳] (左京の大夫は)下京辺りの家に、出歩きもしないで籠っていた。[反対語]①~④、⑥~⑩上(かみ)。 しも 【霜】 名詞霜。白髪にたとえていうこともある。[季語] 冬。出典万葉集 八〇四「か黒き髪にいつの間かしもの降りけむ」[訳] 黒い髪にいつの間に霜が降ったのであろうか(=白髪になったのであろうか)。 |