かな・し 形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ} (一)【愛し】①しみじみとかわいい。いとしい。出典伊勢物語 二三「限りなくかなしと思ひて、河内(かふち)へも行かずなりにけり」[訳] この上なくいとしいとおもって、河内へも行かなくなった。②身にしみておもしろい。すばらしい。心が引かれる。出典新勅撰集 羇旅「世の中は常にもがもな渚(なぎさ)漕(こ)ぐ海人(あま)の小舟(をぶね)の綱手(つなで)かなしも」[訳] ⇒よのなかはつねにもがもな…。(二)【悲し・哀し】①切なく悲しい。出典伊勢物語 二四「女、いとかなしくて、しりに立ちて追ひゆけど、え追ひつかで、清水のあるところに伏しにけり」[訳] 女はとても切なく悲しくて、(男の)後ろについて追って行くが、追いつくことができないで、清水のあるところに倒れてしまった。②ふびんだ。かわいそうだ。出典竹取物語 かぐや姫の昇天「翁(おきな)をいとほし、かなしと思(おぼ)しつることも失せぬ」[訳] 翁を気の毒で、ふびんだとお思いになっていた気持ちも(かぐや姫の心から)消えてしまった。③くやしい。残念だ。しゃくだ。出典宇治拾遺 七・二「物もおぼえぬ腐り女にかなしう言はれたる」[訳] 何の教養もないつまらない女にくやしくもいわれたことよ。◇「かなしう」はウ音便。④貧しい。生活が苦しい。出典諸国ばなし 浮世・西鶴「これはかなしき年の暮れに、女房の兄、半井清庵(なからゐせいあん)と申して」[訳] これは貧しい年の暮れに、妻の兄で半井清庵といいまして。 |